TO ROMANCE A CHARMING ROGUE

ローズ・ガーデンをきみに

20091125 ローズ・ガーデンをきみに カバー画像.jpgニコール・ジョーダン著/森野そら訳
960円(本体914円)/2009年11月27日発売
原題:TO ROMANCE A CHARMING ROGUE

「恋愛戦争」シリーズ第4作です。『グレイの瞳に花束を』でヒーロー役だったマーカスの妹、エレノアがヒロインになります。ヒーローは本書で初登場となる、デイモンです。『シャンパンゴールドの妖精』に登場したハヴィランド伯爵も後半で活躍します。

あらすじ

貴族の血統、引き継いだ巨額の財産……そして比類なき美貌を持つ令嬢エレノアの前には、名だたる求婚者が後を絶たなかった。イタリアの公国のプリンスすら、彼女を妃に迎えようと狙っていた。だが、エレノアは、どんなに裕福で魅力的な相手でも、結婚を承諾することができなかった。なぜなら、彼女は財産狙いではない、愛のある結婚を求めていたからだ。

だが、エレノアに心ひかれたプリンスは、彼女との関係を深めるべく、さまざまな誘いをはじめることとなった。

ところが、プリンスがエレノアへのアプローチをはじめたとき、エレノアの前に、かつて彼女と婚約しながらも、裏切った男デイモンがあらわれる。デイモンとは二度と顔を合わせたくなかったエレノアは、デイモンへの怒りをあらわにする。

それ以降、デイモンは、エレノアとプリンスが出かける場にあらわれ、ふたりが仲良くなるのを邪魔しようとする。デイモンの不可解な行動に怒りをおぼえるエレノア。

ついにエレノアが追及したとき、デイモンは答えた。「きみが結婚すべきなのは、あいつではなく、この私だ」と――。

ニコール・ジョーダンの「恋愛戦争」シリーズ一覧

冒頭のご紹介

男性にすっかり心を奪われている様子を見せないこと――本当なら特に。弱みを見せれば男性を優位に立たせてしまいます。女性が勝利を手にするには、持てる力を総動員しなければなりません。
――匿名のレディ著『若いレディに贈る、夫を捕まえるためのアドバイス』より


一八一七年九月、ロンドン

「エレノア、最悪の事態ですよ! レクサムが来たわ」
 混み合う広間の壁ぎわにいたレディ・エレノア・ピアースは叔母の言葉に耳を疑った。心臓がドキドキする。「今夜、このカールトン・ハウスに来たってこと?」
「まさにそう。今、到着したとか」エレノアの叔母であり付添人であるレディ・ベルドンが顔をしかめた。「なんて男かしら! 少しはあなたのことを思いやってもいいはずでしょうに」
 たしかにレクサム子爵デイモン・スタッフォードは大胆な男だ。実際、エレノアの知り合いの中でいちばん大胆と言えるだろう。再会のショックに耐える心の準備はできている。少なくともエレノアはそう信じていた。
 エレノアは冷静さを装って微笑み、心を落ちつけようとした。「レクサム子爵にも摂政皇太子のパーティに出席する権利はあるでしょうね、ベアトリクス叔母様。わたしたち同様、招待されているんでしょうから」
 現在英国の摂政を務めている皇太子ジョージは、ロンドンに所有する絢爛豪華なカールトン・ハウスでしばしば祝宴を催すのだが、レディ・ベルドンは亡夫が皇太子と親しかったため、時おり招待客として招かれていた。
今夜、館は押しよせた人びとの熱気であふれかえっている。エレノアはあたりを見まわした。だが、かつて彼女の心を奪ったあと無惨に踏みにじった放蕩者の姿はどこにもなかった。
「たいしたことじゃないわ」ホッとした気持ちを隠しながらエレノアがつぶやいた。「レクサムには好きな場所に行く権利があるのよ」
 ベアトリクス叔母が鋭い視線を返した。「まさかあの男の肩を持つつもりじゃないでしょうね? あんなひどい目にあわされたというのに」
「肩を持つつもりはないわ。でも、どうせまた会うことになるって覚悟してるだけよ。仕方がないわ。彼がロンドンに戻ってきてからもう一週間よ。お互い同じようなところに出入りしているでしょうし」
 レディ・ベルドンは不愉快そうに首をふると、ふいに姪の顔をじっと見つめた。「もう帰りましょうか、エレノア。殿下に暇乞いをして――」
「逃げるつもりはないわ、叔母様」
「ならば、覚悟を決めることね。もうすぐ現れますよ」
 ぼんやりしたままうなずくと、エレノアは深く息をついた。かつて婚約していた恐ろしく魅力的な男と再会する覚悟はできている。
 デイモンが二年間の海外暮らしを終えてロンドンに戻ってきたことは、数日前から警告されていた。社交界のゴシップに耳ざとい、レディ・ベルドンの友人たちが教えてくれたのだ。彼に出会ったら何と言ってどんな態度を示すか、エレノアは念入りに考えていた。礼儀正しいけれど冷たく無関心な態度で接するつもりだった。
「落ちついた応対ができるはずよ」言葉とは裏腹にエレノアの胸はざわめいた。
けれど、ベアトリクス叔母は納得する様子もなければ子爵の過去の罪を許すつもりもないようだ。「あんな悪党と顔を合わせるなんて。まともな紳士なら社交界から離れているはずよ」
「ずっと離れていたでしょう」エレノアが冷静に言葉を返した。「二年もね」
「それでも短すぎます! 永遠に追放されてもいいぐらいよ」
残念ながらそこまで厳しい罰に値するほどの罪ではないだろう。エレノアは思った。「それは言いすぎよ、叔母様」
「そんなことないわ。ああ、あんな放蕩者をあなたに紹介した自分を一生許せないわ」
「叔母様のせいじゃないわ。実際、紹介していないじゃない」
レディ・ベルドンは優雅に手をふって否定した。「うちで開いた毎年恒例のハウス・パーティで引き合わせてしまったんですもの。紹介も同然です。あの男をうちに入れなければ、あなたを悲しませずにすんだわ。でも、彼はマーカスの友人だったでしょう。あんなひどい男だなんてわからなかったのよ」
 たしかにそうだわ。エレノアは静かに考えた。
 最愛の兄マーカスはデイモンを高く評価していた――あの劇的な婚約解消までは。エレノアも同じだった。すばらしくハンサムで奔放な魅力にあふれたデイモンは、若い娘たちのひそかなあこがれの的であり、母親たちの悩みの種だった。
ベルドン子爵夫人ベアトリクス・アトリーは、あまり母親的資質を持ち合わせていない女性だったが、それでも十歳のときに両親を亡くしたエレノアを引き取り、シャペロン役を引き受けていた。そして、彼女なりにエレノアを愛してくれた。
 また、骨の髄まで貴族である叔母は、貴族らしい生き方を重んじる女性だった。そんな彼女が、自由奔放だとうわさされるレクサム子爵を大目に見ていたのは、数百年前までさかのぼれるほど古い子爵家という彼の家柄と、エレノアを上回るほど豊かな財産のせいだった。
 もっともエレノア自身は、デイモンの爵位も財産もどうでもよかった。彼という人間そのものに惹きつけられたのだ。デイモンに出会った瞬間、エレノアは稲妻に打たれたように心を奪われ、どんな男にも感じたことのない絆の存在を直感した。
 恋に落ちるのはあきれるほど簡単だった。
 もちろん、若さのせいでそんな愚かなことをしたのだろう。あのとき、エレノアはまだ十九歳。乙女らしいあこがれからロマンティックな恋そのものに恋していたころだった。夢にまで見た熱く心を燃え上がらせてくれる求婚者――それがデイモンだった。
 婚約までの数週間の求愛期間はめくるめく日々だった。エレノアは彼の妻として生きる幸せな人生を信じていた――あの運命的な日まで。あれは二年前。あの日の朝、エレノアはハイド・パークで見てしまったのだ。デイモンが美しい愛人とともに馬車に乗っている姿を。隠そうともせず、堂々と見せつけるような姿だった。
 彼の裏切りに傷ついたエレノアはすぐさま婚約を解消し、二度とデイモンに近づかないと誓った。心を傷つけられただけではない。恥辱を受け、誇りをズタズタにされたのだ。今も消しきれない心のざわめきが残っている。それでもエレノアはおじけづくつもりはなかった。
「そうね」レディ・ベルドンの言葉がエレノアの物思いを破った。「ここに残るというのなら、大公殿下のおそばにいたほうがいいわ。レクサムを近づけないために」

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